第1章 伊集院玲の場合。 「会長。」 鷹村蘇芳が嘆願した。 「どうか、書類に目を通して貰えませんか?」 「ああ、蘇芳。」 妹之山残は静かに扇子を扇いでいた。 「僕もしたい!だがな、外がとっても美しいじゃないか....」 「クソッタレの会長の為に!」 伊集院玲が叫んだ。 「いまいましい書類に目を通すべきです!!!」 残と蘇芳はボウゼンとし、沈黙が部屋を包んだ。 「な....何て言ったんだ?伊集院。」 蘇芳が小さな声で尋ねた。 玲は目をパチクリとさせて、言った。 「僕は、自然の美しさを賛美されている所が、会長らしいなァ、 と言ったんですよ。」 「おお!」 残と蘇芳が玲ををジッと見つめて言った。 「も....勿論、そう言ったんだよな、玲は!」 残は、ホッとして溜息をついた。 「暫く、考えてたんだよな、僕は....ウーン....。」 玲は2人を見て目をパチクリとさせた。 「何を考えて見えたんですか?」 玲は尋ねた。 「えーと。」 残は言った。 「多分、書類に目を通そうとしてたんだな。」 「そうです。お願いします。」 蘇芳も同意した。 2人は、それ以上何も喋らずに、自分の机に直行し、一生懸命に 書類を処理し、始めたのだった。 玲は2人から視線をそらし、口に僅かに笑いを浮かべながら、 お茶の準備を始めた。 彼は、こうする事を長年待っていたのだ!!! <終わり> 第2章 鷹村蘇芳の場合。 妹之山残は更に上体を曲げた。 「もう少し....もう少し....」 彼の手は自分の目標に辿りついた。 「アハッ!」 「イェイ!」 帽子を残が取ると、下から喝采の声が上がった。 彼は笑いを浮かべ、下を見た。 だが、その時、彼は後ろの方で不吉なクラック音を感じ取った。 「ああーーーーっ!」 残は折れた枝の上から叫んだ。 彼の息は、切れ切れだった。 ドスンと音を立てて、残は幾らか静かに着地した。 「オオ....」 「会長!」 息を切らした声が、残の背後から聞こえた。 「蘇芳!」 残は自分の親友であり、個人的なボディガードを自分の下敷き にしていた。 「大丈夫か?」 「僕は大丈夫です。」 鷹村蘇芳は、ゆっくりと立上がりながら言った。 「会長!どうか、もっと注意なさって下さい!」 彼は残を叱り付けた。 「大怪我をなさる所でしたよ!」 「すまない、蘇芳。」 残は笑いながら謝った。 「だがな、女性がお困りになっていたんだ!」 笑いを浮かべ、彼は振り向き、自分が握り締めている帽子を自分 の脇にいる金髪の少女に差し出した。 「あら、有難う。」 彼女は囁いた。 「貴方が、この木に登って下さったのね。とっても、勇敢でしたわ。」 「どういたしまして!」 残は、彼女にニッコリと笑いかけた。 「さようなら!」 彼は、少女に手を振った。彼女は2人の友人の方へ走って行った。 「会長、どうして僕が来るのを待っていてくれなかったんですか?」 蘇芳は憤激して尋ねた。 「貴方が運動音痴なのは、ご自分が一番良く分かっている事でしょう!」 「ああ、だがな、蘇芳。」 残の顔に、人を馬鹿にした様な笑いが浮かんだ。 「女性がお困りになっている時、僕は彼女の問題が解決するのを、如何 して待っていられようか?そして、女性が不幸になっている時、僕は 彼女の悲しみが消えるのを如何して待っていられようか?それに、女性 がご自分の帽子を木に引っ掛けてしまったら、誰かが、帽子を取るのを 僕は待っていられるか?」 残は自分の背中をさすった。 「ずり落ちてしまった事は良くないがな。」 「会長!」 蘇芳は叫んだ。 「貴方は....貴方は....」 残の顔は、不意に吹っ飛ばされた。 残は、蘇芳がこんな行動を取った事に驚かされた。 残は危険に晒されると、CLAMP学園にいる残り時間、学生会室に閉じ込め られていた。 そうなる前には、蘇芳は、かなりの時間を割いて、残に文句を言っていた し、文句を言う前には、学生会室の隅は書類で埋め尽くされていたので あった。 残は、蘇芳が今考えているであろう事を思うと、ゾッとしたのであった。 「貴方は....。」 蘇芳は突然、宙に手を上げ、叫んだ。 「大馬鹿者です!」 そして、突然、笑い出した。 *おや、蘇芳、自分を見失っているな。多分、僕が激しく蘇芳の上に落ち た為、だろうが。* 残は考えた。 「落ちたのは....落ちたのは良くない事です....ハハハハハハ。」 蘇芳は自分の脇腹を押さえ、笑って、笑った。 涙が彼の頬に流れていた。 「落ちたのは良くない事です!!!!」 突然、残の頭を掴み、他の生徒達に、それを見せびらかした。 「ああ、何て美しい日なんでしょう!」 蘇芳はそう言って、歩き出した。 残はポカンと蘇芳の後ろ姿を見ていた。 「な....何だって?」 <終わり> 第3章 妹之山残の場合。 人の影がコソコソと動き、中庭を全速力で掛け抜けて行った。 突然、巨大なスポットライトが光り、その影を照らした。 「ああっ!」男は叫んだ。 2人の少年が男の前に飛び出して来た。 そして、男の目を塞ぐ為、男は自分の腕を掴まれた。 「丁度、僕が考えていたのは。」 甘い声が言った。 「犯罪者は犯行現場に戻って来る、と言う事なんだ。」 男は腕を下ろし、その前には、金髪の少年が立っていた。 男は少年を睨み付けていた。 少年の両脇には2人の少女が寄り添っており、一人が男を睨み つけていた。 「女性に害をなす体操器具は良くない物だ。僕は許す事が出来ない!」 妹之山残は、自分の扇子を開き、叫んだ。 鷹村蘇芳と伊集院玲が、残が来る迄、男の腕を掴んでいた。 「最初にキチンとしておけば、上手くやれたかも知れないのにな.... 相川さん!」 残は扇子で男を指差した。 残を除いた4人はギョッと息を呑んだ。 「相川さん?」 梓夜凪砂嬢(注1)と大川詠心嬢(注2)は、自分の目を見開いて、 唖然として言った。 沈黙.... 「あの、会長。相川さんじゃ、有りませんよ。」 「アッ、ハ、ハ....」 残は笑った。 「ああ、僕に、当てずっぽうだ、って事、教えてくれたんだな。」 そして、男はドスンと地面に倒れたのだった。 <終わり> 注1:梓夜凪砂(あずやなぎさ) CLAMP学園幼等部に在籍。 日本舞踊の素晴らしい踊り手。 鷹村蘇芳のガールフレンド。 注2:大川詠心(おおかわうたこ) CLAMP学園幼等部学生会会長。 伊集院玲のガールフレンド。